烏羽の表

日本書紀 巻第二十

  敏達天皇 亭中倉太珠敷天皇

 六月、高麗の大使が副使たちに語っていうのに、「欽明天皇の時に、お前らは私の考えと違い、人に欺かれて、勝手に国の調を分けて、つまらぬ人間に渡してしまった。お前たちの過失ではないか。もしわが国王が聞かれたら、きっとお前らを処罰されるだろう」といった。
 副使らは仲間うちで語り合って、「われわれが国に帰った時、大使がわれわれの過ちをうちあけてしまったら、まずいことになる。こっそり殺してその口を塞ごうと思うがどうか」といった。この夜、はかりごとが漏れた。気付いた大使は衣服をあらため、ひとりこっそりぬけ出した。館の中庭に立って、どうしたものかと思っているときに、賊の一人が、杖をもって出てきて、大使の頭を一撃して逃げた。次に賊の一人が、まっすぐに大使に向って、頭と手を打って逃げた。大使はなおだまって地面に立って、頭の血を拭いた。また賊の一人が刀をもって急襲し、大使の腹を刺して逃げた。大使は恐れて地に伏して拝んだ。後で賊の一人がついにこれを殺して逃げた。翌朝、外国使臣の接待役の、東漢坂上直子麻呂らが、その事件を取調べた。副使らは偽りを述べて、「天皇が大使に妻を賜りましたが、大使は勅に背いて受けませんでした。まことに無礼なので私どもが天皇のため、彼を殺したのです」といった。役人は礼式に従って、骸を収め葬った。