烏羽の表

日本書紀 巻第二十

  敏達天皇 亭中倉太珠敷天皇

 十五日、天皇は高麗の国書をとって、大臣に授けられた。多くの史(文書係りの役員)を召し集めて、解読させられた。このとき史たちは三日かかっても、誰も読むことができなかった。そのとき船史の祖先、王辰爾が読み解いてたてまつったので、天皇と大臣は共にほめられて、「よくやった。辰爾。立派なことだ。お前がもし学問に親しんでいなかったら、誰がこの文章を読み得たろうか。今後は殿内に侍って仕えるように」といわれた。そして東西の(大和・河内の)史に、「お前たちの習業はまだ足りない。お前たちの数は多いが、辰爾一人に及ばないではないか」といわれた。また高麗のたてまつった文書は、烏の羽に書いてあった。字は烏の羽の黒いのに紛れて、誰も読める人がなかった。辰爾は羽を炊飯の湯気で蒸して、綿(柔かい上等の絹布)に羽を押しつけ、全部その字を写しとった。朝廷の人々は一様にこれに驚いた。