戦没者追悼式

麻生首相の式辞

 先の大戦では、300万余の方々が、祖国を思い、愛する家族を案じつつ、亡くなられました。戦場に倒れ、戦禍に遭われ、あるいは戦後、遠い異境の地において亡くなられました。また、我が国は、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。国民を代表して、深い反省とともに、犠牲となられた方々に、謹んで哀悼の意を表します。
 終戦から64年の歳月が過ぎ去りましたが、今日の日本の平和と繁栄は、戦争によって、命を落とされた方々の尊い犠牲と、戦後の国民の、たゆまぬ努力の上に築かれています。
 世界中の国々や各地域との友好関係が、戦後の日本の安定を支えていることも、忘れてはなりません。
 私たちは、過去を謙虚に振り返り、悲惨な戦争の教訓を風化させることなく、次の世代に継承していかなければなりません。
 本日、ここに、我が国は不戦の誓いを新たにし、世界の恒久平和の確立に向けて、積極的に貢献していくことを誓います。国際平和を誠実に希求する国家として、世界から一層高い信頼を得られるよう、全力を尽くしてまいります。
 戦没者の御霊(みたま)の安らかならんことを、そしてご遺族の皆様のご健勝をお祈りして、式辞とさせていただきます。


参院議長 追悼の辞

 終戦から64年がたった今でも、あの胸の痛みは去ることなく、私たちを祈りへと駆り立ててやみません。戦地に斃(たお)れた兵士、戦火で命を落とした市民、最愛の肉親に先立たれたご遺族、そして戦争が心や体に残した傷に今なお苛(さいな)まれている方々の無念と悲しみは、いかばかりでしょうか。心から哀悼の意を表し、お見舞いを申し上げます。
 戦後、わが国は焦土の中から立ち上がり、日本国憲法の掲げる平和、民主主義、基本的人権の理念のもと、半世紀以上にわたり、他国と戦火を交えることなく平和を貫いてきました。そして、多くの方々の尊い犠牲と国民こぞっての粘り強い努力により、目覚ましい発展を遂げてきました。こうした先人の血の滲(にじ)む努力を決して忘れず、しっかりと受け継ぐ決意を新たにしなければなりません。
 先の大戦では、国内外で苦難を味わった国民はもとより、わが国の侵略行為と植民地支配により、アジア諸国をはじめ広い地域の人々にも、多大な苦しみと悲しみを与えました。その深い反省の上に立ち、戦争の惨禍を二度と繰り返すことなく、真に世界から信頼される平和国家を築いていくことが、私たちの責務です。
 対立する相手との共存を求めず、排除にのみ走れば、身内の結束は高まっても、必ず対立が一層の紛争激化を生み出します。多様な意見にしっかり耳を傾け、ひたすら対話の努力を重ねていく以外に、平和を実現する道はありません。わが国は、世界で唯一の核兵器被爆国であり、消し去ってはならない痛ましい経験を数多く持っています。米国のオバマ大統領の各廃絶発言で、世界が新しい扉を開こうとするこの機会に、先の国会では衆参両院で核廃絶の本会議決議を全会一致で採択しました。今こそ恒久平和の理想に向けて歩みを進めるよう、世界に働きかけていくことを決意します。
 終わりに、改めて戦没者の方々のご冥福をお祈りし、ご遺族の皆さまのご健勝とご多幸、そして今後の世界の平穏を心から祈念して、追悼の言葉といたします。


天皇陛下の「おことば」

 本日、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり、全国戦没者追悼式に臨み、さきの大戦において、かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。
 終戦以来既に64年、国民のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、苦難に満ちた往時をしのぶとき、感慨は今なお尽きることがありません。
 ここに歴史を顧み、戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。